朝､目を覚ますと
昨日泊まったはずの彼女が
隣にいない。


けれどその代わりに僕はしばらくして
甘い匂いと珈琲の香りがするのに
気がついた。


香りを辿るようにキッチンに行くと
彼女が珈琲メーカーを横に
ホットケーキを焼いていた。


『おはよ』


『…あ!？起きちゃった!？』


『ん〜…美味しそうだけど
どうしたの？ソレ』


『この前､いつか作ろうと思って置いといたの』


…気づかなかった。

自分の部屋なのに、普段自炊を
しないせいか､今では彼女の方が
うちに何があるのかわかっていた。



僕はそのことに少し戸惑うような気持ちを覚えたけれど､
これから彼女によって作られる
絵に描いたような温かな食卓を思い浮かべ少し幸せな気持ちにもなっていた。



『…ダメだった？』



何も言わない僕に彼女は不安そうに聞いた。


゛彼女が我が物顔で部屋を占領゛
する感じで嫌だと言うやつもいるけれど
そう言われるほど悪いものでもない気がしていた。



『いや…
いつもそんなちゃんとしてるの？』


彼女はコーヒーを入れながら


『優ちゃんといるからだよ』


そう言ってコーヒーを渡してくれた
彼女の顔は照れていた。



僕はコーヒーを受けとり、
ソファーに座りそれを飲んだ。

いつもはミルクも砂糖も入れて飲むけれど､なんとなく渡されたコーヒーをブラックのまま飲んだら､やっぱりちょっと苦かった。


でも飲めないほどではない。


僕はそっとキッチンにいる彼女をみた､

けれど､そこにいたのはあの日の陽太と百合だった。