柊イトイは、「食べられたい」と僕に訴えかけてきた。

彼女曰わく胃液にどろどろに溶かされて、もう自分でなくなるくらいにされたいらしい。

言葉だけ聞くとどこか卑猥に思えたのは、僕が年頃の男子だから、ということにしておいた。

想像したら気持ち悪くて吐き気がしたが。




「なーなー、柊と何かあったのかよ?」


そう尋ねてくるのは、友人のモトハル。

元春、と書くので、あだ名はゲン。単純である。


「………………別に」

僕は、周囲を恐れて咄嗟に嘘をついた。

問題児な優等生にキスされたなんて口が裂けても言えるはずがない。

僕の嘘は通用したのか、ゲンはふーんと一言。他人事のように呟いた。
いや、実際他人事なのだけども。



「お前だったらやり返される心配がないからって遊んでるだけか」

「…………そういう事だって願っとく」


俺も願っといてやるよ、とゲンは女子を虜にするような笑みを浮かべた。

一方僕はと言えば、天然女たらしめと声に出さずに毒ついて笑っていた。