夢を見ていた。


顔が靄にかかって見えない男の夢だ。


『茜……』


その男は優しい声音で茜の名を呼び続ける。


そして茜が近付こうとすると決まって遠くに行ってしまうのだ。


「行かないでっ!」


茜は声を張り上げる。


男は黙って白い彼方に消えてしまう。


そこで、目を覚ました。


いつもの見慣れた天井が広がっていた。


「はあ…はあ…はあ……」


なぜか息切れしていた。


目尻にはたくさん流れた涙の痕。


起き上がり、ぎゅっと胸元のパジャマを掴む。


(……あの人は、誰なの?)


茜の問いに答えてくれる者はいない。