私が旅に出た当初の目的が『精霊の社(ほこら)』巡礼である。

各精霊「風、地、闇、光、水、火」の祀られている社が各地に点在しており、それらを巡るのが目的なのだ。

これは術士の修行方法として最もポピュラーな手段であり、一人前になるための儀式のようなものでもあった。

『精霊の社』というのは魔物から『生命の樹』を守るために、精霊が人間たちに造らせた結界だと言い伝えられている。

生命の樹はこの世の根源であり、古代の魔物たちは何故かこの樹を欲しがったのだという。

しかしこれらの話は全て伝説。この世にいる殆どの人間たちは私も含め、ただのお伽話としか思っていない。

「今はどの社も警備が厳重らしいけど、昔は絶えず襲撃されていたっていう話を聞いたことがあるわ」

かつて魔物たちは結界を壊すために社を攻撃していたという。各社は何度も破壊されたが、結果的に生命の樹は現れなかったらしい。

「麓にあるフィオス町や山腹にある水の社は、確かに襲撃されていたらしいね。村に保管されている古文書にも、そんな記録が残っていたよ。
でもウチの村は襲撃されなかったらしい。多分、地形のせいじゃないかとは思うんだが」

「地形? そんなに襲撃されにくい場所にあるの?」

「複雑に入り組んでいるというか……まあ、実際に行ってみれば分かると思うよ」

ディーンは何故か歯切れの悪い言い方をした。同時に苦笑いも浮かべているように感じられる。