「アレックス」

その声で一斉に振り向いた少女たちはディーンの姿を目にした途端、悲鳴を上げながら脱兎の如く逃げていった。

「ははは…あのコたち、面白いように駆けていくな」

彼女たちの後ろ姿を見ながら彼は不気味な笑み――というか、愉快そうに笑った。

「君たち、遅かったではないか。また迷子になったのかと思っていたぞ」

「その点はご安心を〜。地図を持っていますし〜それにエリスさんともはぐれないように〜アレックスさんの仰った通り〜しっかりと手を繋いでいましたから〜」

「うむ。どうやら俺の発想が、功を奏したようだな」

アレックスは顎に手を置いて、ウンウンと満足そうに一人で頷いている。

そんな彼に向かって、ディーンは少し強い口調で咎めるように言った。

「とにかくアレックス、隠れていないと駄目だろ」

「む、何故俺がコソコソと隠れねばならんのだ。胸を張り威厳を保つことこそが、皆から尊敬され愛されるべき真の英雄たるものの姿であり、努めではないのか」

逆に反論するアレックス。続けて何かを言いかけた様子だったのだが。

「分かった、分かったよ。どうやらお前に言い聞かせようとした俺が、馬鹿だったようだな」

ディーンは降参したかのように肩を竦めると、溜息とともに両手を胸の辺りまで挙げた。それに対して「分かれば良い」とあっさり納得したアレックスは、それ以上何も言わなかった。

やはりこういう場面ではこちら側から折れ、即座に話の幕を下ろすのが効果的なようだ。また一つ、勉強になったような気がする。

「ところで〜ディーンさんはギルドに〜一体何の用事があったのですか〜?」

「そのことなんだが、俺はこの村では君たちと別行動をとることにしたよ」