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(ヤレヤレ、ですな)



彼は放っていた火焔を止め、目の前で発光している黒いモノから手を離した。

ソレは微かな羽音を立てて空中へ浮かび上がると、彼の右肩に舞い降りる。



「まだあの辺りに潜んでいるとは思っていましたが、お陰で目標を捉えることができました。
しばらく張っていた甲斐があったというものです」

彼は眼を釣り糸のように細めると、独りごちた。

周囲には誰も居ない。居るのは肩に乗っている傀儡のみ。

この傀儡は以前、主から与えられたモノだった。

『対』でなければ役に立たない傀儡(モノ)であったが、今そこに居るのは一匹だけである。

もう一匹は先程空間を介し、攻撃を放った先に居る。

(しかしわたくしの認識も、どうやらかなり甘かったようですね。
後で愚者の尻ぬぐいをせねばならぬとは……それに主様が、あの者に接触していたことも想定外でした)

時々主(あるじ)が側近に何も告げず、ふらりと行動することはあった。

だが主は、今回の接触相手を毛嫌いしていたはずだ。故に自ら訪問するなど、彼にとっては予想外。

後日それを告げられた時には、流石の彼も驚愕したものだった。