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ようやく傷の癒えた彼は、目的地へ向かって歩き出そうとしているところだった。

つい昨日まで大勢のギルドや騎士連中が、現場であるこの場所を彷徨いていた。

だがそれもようやく片付いたのか、今朝は人影も殆ど見かけなくなっている。





「くそ、あの女…」



自身がかけた透過術の中から慎重に辺りを窺いながら、彼は外へと身を乗り出していた。

そして3日前のことを思い出し、歯噛みする。



最初に命令された目標(ターゲット)が、あまりにもつまらなかった。

退屈しのぎにさえもならないほど、弱すぎたのだ。

だから途中で現れた女――ルティナに切り替えることにした。



無論命令も大事だが、『最強』になることも彼にとっては、非常に魅惑的なことだった。

特に魔物である彼が、それを欲するのは本能でもある。

故に倒した後で命令を実行するのが、一番合理的な方法だと判断した。

彼はその選択が間違っていたとは思っていない。

が、不測の事態が起きてしまった。



(まさかあの女に、あのような能力が……)