彼女は私のような新米術士などではなく、恐らくベテランの部類に入るだろう。

その彼女が冷静さを欠き、闇雲に戦いを挑んでいるのだ。

彼女とゼリューの間に、一体何があるというのか。

「エリス!!」

先程よりも鋭い声が飛んだ。

圧倒的な迫力のある怒声に、私は思わず身を縮める。

動くことができなかった。その声だけで全身を切り刻まれるのかと、本気で思うほどだ。



「……そうか」



ルティナは地面へ血を吐きつけると、先程の激しさからは打って変わったかのように、静かな口調で呟いた。

「貴様がそういうつもりなら」

彼女がゆらりと立ち上がる。

「ならばこちらも既に、もう何も訊く必要はあるまい」

ゼリューを見据えるその瞳には、絶望と同時に何かを決意したような……諦めたような、そんな感情が垣間見えるような気がした。



「お前に」

彼が初めてルティナのほうへ、視線を動かす。

「お前に俺は倒せない。指一本触れることさえできない」

そこに感情は表れない。

あるのは相手を射貫くような眼差し。

全てを燃やし尽くすような真紅。

「ならばこれで終わりにしよう」

ルティナは術文を唱えると、左手に風を起こした。