『精霊術は使えないが、「精霊の加護」ならば発動するはずだ』



何故あの魔物は、そう断言できたのだろうか。

それに人間である私を瘴気から保護し、ご丁寧に忠告まで添えて、殺さずに放置するのは何故だろう。

考えられるのは、私のことを『精霊の加護保持者』と思っていることくらいだ。

もし翼の魔物がサラの仲間だった場合には、その可能性が一番高い。

彼女もまたそのような理由で、私たちを殺さなかったのだから。

それにサラと同種族のような感じだったし、何より同じような術文も唱えていた。


……あれ? 同じ術文?


私は左腕を押さえる。

もしかしたら彼ならば、サラに付けられたこの「紋様」が何なのかを、知っているのだろうか。

しかし。

彼の消えていった方向へ目を向けた。



―――――あそこへは行きたくない。



それは本能的なものだろう。

そして何故そのように感じているのか、理由を私は知っている。





瘴気だ。





私は幼い頃に、中位クラスから放たれる瘴気を浴びたことがあった。

その時のことは今でもあまり思い出したくはないが、畏怖の念を抱いたことを強く憶えている。

当時はその感覚が何なのかを知らなかった。

しかし後にその時の状況を父へ話した時、それが魔物の放つ「瘴気」だと教えられたのだ。