私が疑問に思っていると、頭上から微かな羽音のようなものが聞こえてきた。

そこに居たのは、黒くて丸い目玉が一つ。両脇にはコウモリのような羽も生えている。

この前、サラやリチャードと一緒にいた小魔物に似ている……というか、恐らく同じものだろう。

同じく見上げていた魔物の元に、ソレはふわふわと揺らめきながら降りてくる。

手の届く範囲にまで来た時、彼は少し距離を置いた状態でその頭を右手で翳した。

次いで小魔物の全身が、黒く光り出す。

しばらく彼らはそのまま佇んでいた。

が、やがて小魔物のほうは巣立ったばかりの雛鳥のように、不安定な動きで羽ばたきながら、木々の向こう側へと消えていった。

魔物は私に背を向け、それが視界から消えるまで見送っていたのだが。

「この場所には瘴気が充満している。君もその知識はあるのだろう?」

こちらへは振り向かずに訊いてきた。



瘴気。



父から受けていた講義で、何度も出てきた言葉だ。

術士や魔物が術を使用する時に必要な精霊の力は、この地上の大気中に存在している。

そしてその中には「瘴気」も含まれている。

瘴気は通常、低濃度で浮遊しているため、人体への影響は皆無である。

だが濃度がある程度高くなった場合には、徐々に体内へと入り込んでしまう。

嘔吐や頭痛、悪寒、恐怖心、気力低下、全身麻痺、圧迫感、破壊・暴力衝動……などなど、人によって症状は様々であるが、それらを引き起こし、最悪の場合には死に至る―――。

と、この程度の知識ならば私にもあった。