「しかしこの禍々しい気配、外にいた時から疑問に思っていたのだが、一体何なのだろうな。
この強力なもののせいで、他の気配が何も感じられぬ」

「! 何だと!?」

「ど、どうしたというのだ、ルティナ。いきなり吃驚するではないか」

勢いよく振り向いたあたしに対して、アレックスが目を丸くしているようだった。

しかしあたしは、それ以上に驚いていた。

「あんたは外にいた時からこの気配……瘴気に気付いていたというのか!?」

「それがどうしたというのだ。というより、これは『瘴気』と言うものなのか?」

人間は瘴気の発生場所へ近付かなければ、感知できない。それを排除しようとする本能が、無意識下で働くからだ。

例え感覚の鍛えられている芸術士であったとしても、近付かなければ感知できないのが普通である。

芸術士の感知能力というのは、自身に向けられる殺気にのみ有効なだけだ。それ以外は他の術士と、何ら違いはない。

それなのに彼は人間でありながら、更に外界からも感知できたというのか。

「この何だか嫌な気配〜これが瘴気なのですか〜。
魔物には麻薬のような症状が出ますが〜ヒトにとっては毒にしかならないと聞きます〜。
僕のお師匠様も中位クラスと戦った時〜それを浴びたことがあると聞きました〜。
その禍々しさゆえ〜直ぐに逃げ出したくなったそうです〜」