それにしてもエドは一体、どのような説明をしたのだろうか。この口振りから察するに、恐らくは多少の脚色を加えているのかもしれないが。

時々忘れそうになるのだが、彼は何と言っても吟遊詩人なのである。

「英雄? 何を言っている」

「何!??
君はまさか、あの偉大なる英雄を知らないというのか!!!」

訝しんだ様子で訊き返した彼女の手を取りながら、再び凄い勢いで詰め寄っていくアレックス。

「いや、そうではないが…」

急に迫られたルティナは、戸惑いの表情とともに眉根を寄せると、顔を横へ逸らした。

「英雄といえば、アノ話だろう」

彼女は後退りながらアレックスの手を振り払うと、慌てるかのように後ろを向く。

「精霊に守護されし六英雄が、魔王を倒したとかいうアノ話」

「おおっ!
何だ、君も知っているのではないか」

「知っているも何も、有名なお伽話だからな。
それを本気で信じているのは大抵、トイーズダレマ大陸にいる精霊崇拝者かカルト信者くらいなものだが……あんた、信者なのかい?」

「信者?」

アレックスは首を傾げている。

「俺は英雄の末裔だが」

「………は?」

「わーっ、そ、そ、それより、モンスター・ミストの話よっ!」