いきなりのことで不意をつかれた千秋は、自分の身を守るため反射的にリードを外してしまう。


枷が外れた猛獣は、転げ落ちるように斜面を走り抜けると、勢いそのままに川へダイブ!


な、なにが起きたんだ?


スピカの謎の行動に、疑問よりも恐怖が沸き起こる。


「気でも狂ったか?」


「いや、ボールに反応したみたいですよ」


ボール?


よーく目を凝らして見ると、プカプカと川の中心部に野球ボールが浮かんでいた。


なるほど、このボールに反応したのか。老犬のくせに目が良いな。


にしても、まさか川にダイブするとは思わなかった。


暦の上ではとっくに春だが、それでもまだ肌寒い季節。長袖は手放せない。


まだ川の水も冷たいはずだが、スピカは悠々と犬泳ぎを披露して、ボールを口でキャッチした。