「彼氏と上手くいってないのかよ」
上から振ってきた言葉は蚊の鳴くような擦れたもので、車のクラクションが鳴れば掻き消されてしまうほど弱弱しいものだった。
「おい、冗談がすぎるぞ」
「冗談で人を押し倒す趣味はねえよ」
ダメだこいつ。完全に酔ってやがる。
めんどくせえな。これじゃあまるで俺が襲われているみたいじゃないか。
幸い周囲に人影がないのがせめてもの救いだが、いつまでもこうしてから公然わいせつ罪でブタ箱行きだ。
「肩痛ぇんだけど」
「なあ、俺にしとけって」
「離せ」
「お前みたいな暴れ馬をリード出来んのは俺だけだって」
人の話を聞いてねえよこの馬鹿。いや、昔っから聞いてねえけど。