牛は
ンモォッ

と甲高い声を出し、突然疾走し始めた。


(ひぃぃぃ〜っ!!やっぱりぃぃぃ〜!!)


タケルはムンクの叫びの様に両手を顔に添えた。


「シ…シン……!!取り敢えずユウタをひとみに預けろっ!!」

「あいさっ!!」


シンは未だにメビウスになっていたひとみにユウタを托す。


ユウタを見た途端ハッとなったひとみは


「ユ…ユウタ、誤解だからねっ!お母さんの初めての人はお父さんだからね!!」

とまたもや見当違いな事を言いはじめた。


「ひとみぃぃぃ〜!!てめっ、空気読めぃっ!!取り敢えず逃げろっ!!服、汚れっぞ!!」

とタケルは大声じゃなく、小声で声をかける。

不穏状態が他の牛達に伝染したら大変な事になるからだ。


「お母さん分かってるよ。
お父さんとお母さんは沢山愛し合って僕が生まれたんでしょ。」


「ユウタ…ッ!!」


それでも辞めない親子コントにタケルは

「やめーい!おめぇらバカかッ!!とーさん呼んで来い!!あとあかりも!!」


と大声を出してしまった。


「タ…タケル…!!」


「……あ゙……………」

タケルが口をつぐむも既に遅し。


一頭の牛が疾走し始め、それでこそ不穏に陥ってた牛達が、タケルの大声でビクリッと体を震わせ、仔牛までもが疾走し始めたのだ。


(ひぃぃぃぃ〜!!!)


ムンクの叫び、第2段、である。


「あぁぁぁーもぉ〜!!!!」


疾走し始めた牛達を尻目に、鍵を掛け忘れていた柵の所へタケルは走り出した。


シンとヒサシは疾走している牛達を必死に捕まえようと行ったり来たりしている。


ここまで来たら人間対牛達の強足比べである。


もうすぐで柵…と言う所で、出て行ってしまった仔牛。


(いゃぁぁぁぁぁ〜!!!!!)


タケルは頭が真っ白になった。