カンジが寂しそうにつぶやいた。

「本当なら、このギターで歌を歌ってあげたいけど、
仲間たちともう一度ステージに立つまでは、
このギターは弾かない・・・弾けないんだ」

麗香が見ても、かなり使い込まれたギターであることはわかった。
よく見ると、6本あるはずの弦が2本ない。

麗香がカンジの瞳を覗き込むと、昇りはじめた太陽が、
かすかに映って揺らめいていた。

「最後のステージだった。
後一曲で演奏も終わる、その瞬間に・・・」

その後の言葉が続かなかった。
ギターを抱えている手が震えている。

「カンジさん、ごめんなさい・・・」

「いや、麗香さんの悲しみがとても深いのがわかった。
けれど、今の俺には何もしてあげられない。
このギターを弾くことさえ・・・。
でも、麗香さんに会えて、もう一度歌わなけりゃ、
俺の人生は後悔で終わってしまうことに気がついた。
ありがとう」

「そんな・・。私の方こそ助けられたわ。
いつかきっと、カンジさんのステージを見たい」

太陽が辺りを照らし始めた。
まるでステージの幕が上がるように、
期待に満ちた暖かい光が、
少しづつ夜を駆逐していった。