浜辺に出ると、水平線の一部が明るくなりはじめていた。
波の音が心地よく響いてくる。

波打ち際まで来ると、潮の香りが強くなった。

「そうだ、タクシーの料金を精算しなくては・・・」

振り返ると運転手のカンジが笑っている。

「ごめんなさい、料金を払わないまま、飛び出してしまって」

「大丈夫ですよ、どうせ帰りも乗るでしょう?
ここはタクシーなんかめったに通らないから、
待ってますよ」

「ありがとう・・・。カンジさん」

麗香は再び、波打ち際に向かった。

水平線はますます明るくなり、
日が昇る場所がわかるほどになっていた。

目をつぶり、波の音に耳を澄ました。
ゆっくりとした波のリズムが、
心を解きほぐしてくれる。

ようやく自分を取り戻せた。
そんな気がして、からだの力が抜けた。

気配がして、振り向くとそこにカンジが立っていた。
ギターを抱えて・・・