麗香は窓を開けた。

冷たく締まった風が車内を駆け巡る。

その風の中に、微かだが海の匂いが混ざっている。

「ほら、海が見えてますよ」

カンジの声で我にかえり、その言われた方を見た。

建物や林の隙間から、黒い海が見える。

思っていた以上に、海が近くにあった。


都会のなかで、鉄やコンクリートに囲まれて、しかも周りの目を気にして生きている自分は、動物園の檻の中で飼われているのとどこが違うのだろう。


時折麗香を襲う不安だった。

いつかきっと私を、この都会の檻から解放してくれる人が現れる。

その思い込みによって、その人を探すのが生き甲斐となっていたかも知れない。

だからオーディションの様に、男を篩にかけていたのかも知れない。

海を見ていると、そんなちっぽけな自分の存在が、スッと消えてゆく。

何があっても、海はいつでも海でいてくれる。

失いがちな安心感を与えてくれる。

今日の自分は、いつも以上に不安定な心を持っていたのだろう。

本能がもっと生きようと、理性を海へ誘ったのかな。

あのまま部屋に戻っていたら…