タクシーに乗り込んだ麗香は、自宅のある場所を告げた。

何気無く外を見ると、街の灯りがにじんでいる。
「えっ、雨?」

「お客さん、雨なんか降ってないですよ。星が綺麗な夜ですよ」

「あら、そう」

麗香はそう応えるのが、精一杯だった。

にじんでいるのは、自分の涙のせいだった。

何故だろう。

ともやのせいか。

麗香は深くゆっくりと、息をした。

「ねぇ、運転手さん。行く場所変えるわ。今から出来るだけ遠くまで走って。でも、日の出に間に合う海岸がいいな。無理かな?」

「良いですよ。お客さんの涙見たら、断れないですよ」

「ありがとう…。あの…お名前は?」

「カンジと呼んで下さい。で、お客さんは?嫌なら言わなくてもいいですけど」

「麗香…」

「麗香さんですか。良い名前ですね」

「そういえば、運転手さん…じゃなくて、カンジさん。どこかで見たことあるみたいな、気がするな」

「そうですか…実は、少し前まで、チキンボーイズというバンドでボーカルやってたんですがね。結構週刊誌とかワイドショーとかでましたからね。でもメンバーの入道というのが暴れたもんで、業界から弾き出されたんですよ。で、タクシードライバーやってます」