しばらく風に吹かれ、歩きたい気分だった。

行き交う人の顔が、幸せそうに見える。

自分だけが取り残されて、別世界にいるように感じるのは、満たされないからか。

だが、人の幸せを羨むほど弱くない。

簡単に手にはいる幸せなんて、たかが知れている。

麗香にとって、そんなものは価値がない。

生きるか死ぬかというほどの闘う愛が欲しい。

女らしくないと自分でも思う。

好きだ、惚れただの言葉は要らない。

そんな思いを噛み締めて、歩く姿は並の男には近付けないだろう。

もしかしたら、永遠に見付からないかも知れない。
それでも構わない。

私は私なのだから…


「麗香じゃないか。こんな時間に一人とは珍しい」

声をかけてきた男を見た。

ともやだった。

ともやと言えば、スケコマシで有名だったが、麗香には手を出して来なかった。

あるとき、麗香は訊いた。

「何で私に手を出さないの?」

「お前には、同じ匂いを感じるからな」

それ以来二人は距離を置くようになった。

「ねぇ、今夜私を抱かない?」

「俺はいつも麗香を抱きたいと思ってる。けど、今夜は…」

しばらく間を置いて、ともやが囁いた。

「朝まで飲むなら、付き合うぜ」

「それじゃ、詰まらないわね。またね」

「またな」

麗香はタクシーを拾い、乗り込んだ。