「評判はどうなんですか?」

「良いとは言えませんな。どちらかと言えば『悪い』!」

「どんな風に?」

「金と出世の為なら何でもやる、って感じです」                     
「じゃあ、今回の件も!?」

「いえ、それは何とも言えませぬが、ただ…」               
「ただ、何です?」               
「刀傷のある方の男…!?」

「『菱山幸之新』ですか…?」

「確か…2年程前に仕事を紹介した時には名前が違っていたような…」                
「偽名ですか?」                
「これも今思い出したのですが、『菱山』という男、脱藩組の筈です」              
「脱藩というと?」               
「何でも不貞を働いた自分の妻と相手の男を切り殺して藩を抜け江戸に逃げ込んで来たとか…」

「という事は犯罪者!?」            
「犯罪者とは?」

「罪を犯した人の事です」

「罪人(つみびと)の事ですか!?その可能性はあります。どこの藩かは存じませぬが、もしかしたらその藩から刺客も向けられているかも知れません」

「成る程。そうならば本当の素性を明かすわけはないですね!?」               
「…だと思います」               
「もう一人の『土門重吉郎』の方はどうですか?」             
「う〜ん、残念ながらこちらは存じ上げませぬ!」             
「そうですか。でも、大変参考になりました。有難うございました」

「お役に立てて何よりです…おや、何時の間にか雨も小降りになりましたな…それではそろそろお暇(いとま)を…」                   
「そうですか。綾野!弥兵衛殿に傘を…」                 
「では明日。お待ちしております」