「そうですか、有難うございます。これで私の顔も立ちます」
「それでどうすれば…?」
「明日の七つ半時(午前5時)に私の家においで下さい。私がご案内します」
「承知した」
雨は勢いを弱めることなく以前として強い雨音を立てていた。
「よく振りますなあ…」
綾野が行灯(あんどん)の蝋燭に火を点ける。
「弥兵衛殿は山中殿をご存じですか?」
「山中というと……あ〜っ、あのよく笑うお侍さんですか!?」
「そうです」
「どうかしましたか?」
「実は、その山中殿がある人物から仕事を紹介してもらったのですが、どうも『きな臭い』のです」
「『きな臭い』とは?」
「月10両だそうです」
「月…10両!!?…私はこの仕事を20年以上やっておりますが、そんな仕事を請け負った事は一度もありませんぞ!!」
「でしょう!?弥兵衛殿はどう思いますか?」
「う〜ん、かなり危ない仕事か騙されているかのどちらかでは!?」
「その仕事を紹介した人物が『土門重吉郎』と『菱山幸之新』というのですが、ご存じないですか?」
「『土門重吉郎』と『菱山幸之新』ですか!?…心当たりがありませんな…どんな風体ですか?」
「土門は丸顔で目と口が小さく、菱山は目が鋭くて右頬に刀傷があります」
「刀傷……刀傷…ねえっ!?あ〜っ、思い出しました」