遠くの空が急に灰色掛かって来た。
「兄上、雷が…」
「そうだな、急ごう!」
夏の空は変わり易い。
葵は急ぎ足の中で考えた。
(俺がこちら側の世界にいるという事はあちら側に俺はいないという事だろう、普通は!?…失踪しているのか?死んでるのか?
それとも、魂だけがこちらの世界にやって来て肉体は向こうにあるのか?
はたまた、向こうの世界にも俺は存在しているのか?……
もしかしてこれも…『夢』!?)
『パシッ!』
閃光が走ったかと思った瞬間、『ドーーン!!』と雷が落ちる。
『キャーッ!!』
綾野がしがみ付く。
「落ち着け、綾野、大丈夫だから…」
雨も落ち始めて来た。長屋迄はまだ歩いて10分程の距離がある。
「兄上、どこかで雨宿りいたしましょう?」
「いや、この空模様では小半時(30分)では止まないだろう!?行ける所まで行ってそれでどうしてもダメなら雨宿りを考えよう」
葵も綾野も履物を脱ぎ、着物の裾を托し上げて走り出す。
長屋に着いた頃には本降りとなり二人供全身びしょ濡れであった。
急いで家の中に入ろうとした時、綾野の足が『ピタリ』と止まる。
「どうした綾野?」
「家の前に誰かがいます!!」