「その侍が『お前みたいな弱い奴が道場破りをするとはけしからん。刀などは要らないだろう』という事でその侍の刀を取り上げてしまったのです」                 
「はい…」                  
「その侍が刀を抜いてみたら『竹光』だった。これにはその武士が烈火の如く怒った」

「どうしてですか?」              
「刀は武士にとって命と同じぐらいに大事な物。それを『竹光』にするとは自分の命を捨てているようなもの。それがその侍には武士のプライドを傷つけられたと思ったのでしょう!?それでその貧乏侍に責任を取らせる事にしたのです」

「で、切腹!?」                
「そうなんですけど、普通の刀ならすぐ終わってしまう。それでは、詰まらないと『竹光』で切腹しろと命じた」                       
「切れるんですか?」              
「切れないでしょう!?例えば、鉛筆のとんがってない方で自分の腕を押してみて御覧なさい。皮を破るのでさえ相当大変なのに、あんな先の太い部分で腹を斬ろうったって斬れるものじゃない!」

「どうなったんですか?」            
「その貧乏侍は何度か試みたが、どうしてもダメで、最後には『もう武士はやめるから許してくれ』と泣いて頼んだそうです」                  
「許したんですか?」              
「そこまで言うのなら、ということで…」                 
「葵はそれで『竹光』に興味を持ったんだ!?」              
「それでうちには丁度、在庫がありませんでしたから、注文という形になりまして…」                       
美佐枝が竹光をしみじみと眺めている。                   
「あれっ、先の部分が欠けてますけど…」                 
「これは江戸時代に本当に使われていた物でして…何かにぶつけて欠けたんじゃないのでしょうか?」