「ここではなんですのでお上がりになって線香でもあげて下さい」                  
長谷部は焼香する事にする。                                                     



「お茶、どうぞ」                
「恐れ入ります」                
長谷部は焼香を済ませ、リビングのソファに座っていた。                      
「あの電車に乗っているとは…」

「運が悪いというか…それしか言い様がありません!」

「私も事故の事は知っていたのですが、被害者の名前までは確認していなかったものですから…」                
「ええ…」                   
「それで1週間経っても取りに来てない物がありましたので、昨日、伝票で名前を確認しました。

そしたら、お宅のお子さんの名前で、あれっ、どこかで聞いたことがあるなと思いまして、嫁に聞いたところ、多分そうじゃないか、と言われ、今朝方、新聞社に確認を取り、馳せ参じたというわけでして…」             
「そうだったんですか!?それで先程の話ですが…」            
「あ〜っ、そうでした。肝心な事を忘れてました…この話は作り話という前提で聞いて下さい」

「はい」                    
「江戸時代には『道場破り』という武士の力試しみたいなものがありまして…」            
「ええ…」                   
「ある日、身なりの薄汚い浪人が道場破りを試みるわけですよ」

「はい」                    
「大抵は木刀で試合をするんですが、その貧乏侍が負ける。勝てばお金を貰ったり、道場の看板を取って帰ったりするんですが…」             
「負けると?」                 
「尻尾を捲いて帰る程度なんですが、その道場には運悪く意地の悪い侍がいたんですよ」