「これが『御布施帳』、そして、これが『就業日誌』みたいなものです」            

二冊とも変色はしていたがそれ程『ボロボロ』というわけではなかった。               

住職が『御布施帳』の方を先に見せる。                 
『菱山幸乃新  金100両』

次に、日誌の方を見せてくれる。

『享保10年 11月▲▲日 

長身で異人のような顔立ちをした者、荷車で死体を運び入れ、金100両にて、死体を葬る事を依頼してくる。聞けば、名を、菱山幸乃新、自害との事。見れば、言の通り、腹に3寸の穴の如きがあるのみで他に傷なし。

いつの間にか、かの男の姿なし』

(簡約:菱山幸乃新という男が自殺したので100両で埋葬してくれとの依頼があった。傷は腹に10センチの穴があるだけだった)            
「一緒だね。それに異人の様な男も表れてる。葵、どう思う?」

「う〜ん、何か関係があるんだろうけどそこが全然分からない」

「…菱山さんの家に行ってみる?」

「そうだなあ。それより、腹空かねぇ?」                 
「空いた!じゃ、お昼食べてから行こうか?」               


住職に丁寧にお礼を言って宝承寺を出る。                                                                                                               
菱山は港区高輪の高級マンションの最上階に住んでいた。                      
「すげぇ〜マンション!!って、香澄には驚く程のものでもないか!?」               
「そんな事ないよ!凄いよねぇ…」                                 
金持ちの感覚は俺みたいな庶民には分からないと卑下しながら1階の入り口のインターホーンを押す。