住職に会い、経緯を話す。            
「今、『菱山』様のお墓に案内させますから…」                            
『宝承寺』も住宅街にあったが、こちらは『久遠寺』と比べれば由緒正しく格式も高いお寺であった。                                                                     
小坊さんに案内されてお寺の裏の墓地に向かう。             
「大して広くはないけど、凄いお墓が多いよなっ!?香澄の家クラスが『ゴロゴロ』だよ!」

「うん、確かに…」               
菱山家の墓は墓地の端の方に『ど〜ん』と構えてあった。                      
「こちらでございます。では、ごゆっくり…」               
菩提寺の時は手ぶらだったが、今回は供え用の花を持参していた。            
墓石は大きく、墓の周りは綺麗に整理もされていた。             
花を供え、暫らく合掌してから葵は墓を丹念に調べてみる。                                 
「あった!」                  
墓石本体の下の方に埋葬者の名前が刻まれていた。             
『菱山幸乃新  没 享保10年』                    
「また、享保10年じゃない!?どういう事、葵?」            
「うん、ちょっと調べてみた。享保10年、つまり、1725年は『新井白石』が死んだ年だった」              
「『新井白石』って朱子学者で『正徳の治』とかいう政治をした人でしょう!?」                       
「そう…」                   
「殺されたの?」                
「いや、病死みたい…」             
「じゃ、全然関係ないじゃない!」                      
実は葵には『もしかしたら…』という予想はあったので香澄程の驚きはなかった。