江戸城 側用人『間部詮房』の部屋               

「間部様、新井白石様より御報告がございます」              
若年寄[わかどしより:役職のひとつ]の『山崎源陽』が白石からの書簡を届ける。               

「ご苦労」                   
間部の顔が曇る。                
『城下に不穏な動きありとの噂あり。子細は判らずといえども将軍様とども身辺警護を怠る事勿(な)かれ  白石翁』                  
(簡約:詳しい事は分からないが謀反(むほん)の噂を聞く。くれぐれもご注意を!)                     
「山崎!」                   
「はっ!」                   
「大目付[おおめつけ:謀反を取り締まる]の『村岡汰平』を至急呼んで参れ!」                      
「暫らくお待ちを…」   

急ぎ下がる山崎の後ろ姿を見送る。            

(不穏な動きとは…?)                                                                                  




葵が茂助と勘吉を追い掛けている頃。                     

「荻原様、土門が戻りました」

「そうか、早速、呼んで参れ」                                
10日前後の早旅で甲府と江戸を往復した土門の顔には疲労が色濃く見えた。              
「ただ今戻りました」              
「おおっ、土門、ご苦労であった!どうであった?」            
「はい、金の方は何とか『佐衛門』と借り受けの約束事を取り付けて参りました」                    
「お〜っ、そうか!それでいか程?」                   
「荻原様の言い付け通りに取り敢えず、最初は『二千両』、次回が『三千両』でございます」