その日は両軍睨み合ったまま夜営へと移った。
「陛下、しっかり召し上がって下さい」
「うむ・・・・」
給仕する小者は下がらせて、二人の男は酌をし合っていた。
酌と言っても戦地の真っ只中だ。酒ではない。
「雨でも降りそうな空ですね」
「・・・いっそ降ればいいんだ」
奇襲しやすい。
思ったが言わなかった。
おそらく目の前の青年も、同じ事を考えているだろうから。
この食事が終わったら、主だった将軍職の者を集めて軍議が始まる。
それまでに、この状況を打開する策を考えねばならない。
「なんかもういっそ、あちらさんの目の前に雷でも落ちりゃいいんですけど」
「奇跡だな、落ちたら」
雷は鳴る神の怒りであり訪れであり、制裁である。
鳴る神は正義を司る神でもある。
敵軍の目の前に雷の一つでも落ちれば、敵軍は神を畏れ戦意を喪失するだろう。
逆にこちらの士気が高まる。
戦とは勢いだ。
たとえ戦力に倍の開きがあったとしても、勝機は見えてくるだろうに。
だが神や奇跡ばかり頼ってもいられないことは、分かっている。
分かっているが、それらを心の片隅に置くぐらいは赦されるはずだ。
男がまた食事を始めた、その時だ。
激しい落雷の音が響いたのは。