うわーっうわーっ先輩だーっ!
ひなの心臓が一気に早鐘になる。
「た、たた多田先輩っっ、こんばんは!お久しぶりですね!」
顔をほのかに桃色へ染めながら、ひなは体育会系らしく礼をした。
恥ずかしい!何故、先輩とはいつもこんなタイミングなんだろう!
それもこれも全部あいつのせいだっ!とひなは更なる呪いを渡辺にかけた。
「えっとっ、そのっ、そういえば多田先輩、道場に何か用でもあったんですか?」
多田は3年なので既に夏の大会で引退した後だ。
ひなも会話するのは1カ月ぶりである。
「んー、まぁ、ちょっとね。」
そういってニコっと微笑んだ先輩は少し悲しげで…、
……………。
ひなはスッと自分の竹刀を多田に差し出した。
「先輩、久しぶりだからきっとスッキリしますよ。」
ひなはにっこりと笑う。
きっと就職やら進学やら、3年生には自分に分からない悩みがいっぱいあるのだろう。
「ん、ありがとう。さすが俺の可愛い後輩!気がきくねー。」
一瞬ちょっと驚いた多田は、すぐにアハハハと満面の笑みに変わり、「ひなちゃんのお言葉に甘えて」と、防具人形に打ち込んだ。
スパァァン!!
相変わらず気持ちのよい打ち込みである。
制服のまま竹刀を構える多田に惚れ惚れしながら、ひなはクッと心臓に手を当てた。
ひなは多田が好きだった。