…あれは幻だったのだろうか。

「ねぇ、ひなはやっぱり馬鹿なの?お馬鹿さんなの?こんなとこどうやったら間違えられるの。馬なの?それとも鹿なの?」

丸くなった、優しくなったと思っていたのに。

「これなら小3の山田太郎君の方が受験合格率高いと思うよ。」

「いや誰なのその子!!」

油断していた小テスト一枚でなぶられるだけなぶられ、ひなはHPギリギリだった。

今日も渡辺は勝手にひなの前の椅子に座り、ヒラヒラとひなのテスト用紙を振ってみせる。

そして事細かく解説と問題点を暴言に織り混ぜて突き付けてくる。

為になってありがたいだけに強く反抗出来ない…。

しかし腹立つ…!

でも先生より分かりやすい…!!

ピクピク机に突っ伏して、打ちひしがれているひなの隣で、渡辺が座っている席の本来の持ち主がふむふむとノートを取っていた。

「もう、もうわかったから。いいから。だから、やっさんに席返してあげて。」

「あ、別にいいよー。私もその問題間違ってて、解き方よく分かってなかったから。」

「や、別にいいよじゃないよ!後ろ見て後ろ!やっさんのおしりの下の人がパニック症状起こしそうだよ!」

「ん?瀬崎君、迷惑だった?」

キョトンとした顔をして、やっさんこと、安野ふみがくるりと振り替える。

突然、至近距離で見つめられて、安野を膝に乗せていた瀬崎は真っ赤な顔のままブンブンと首を横に降った。

瀬崎は挙動不審に小刻みに震えながら、「そう。」っとニッコリ笑って前を向き直した安野を膝に乗せ続けている。

人間座椅子…。

ひなは哀れみと飽きれを込めて呟いた。

「この恋愛爆弾。いや、むしろおっぱい爆弾。」

多分だが、瀬崎君は手遅れだろう。

純情そうな顔が突然降ってきた恋(というか膝に乗ってきた)に戸惑っている。

安野は萌え袖をくるりと振り回しながら形のいい腰をくねらせて言った。

「てかさ、てかさ、これだけ分かりやすいのって自分的に何気に感動なんだけど。」

「う、うん。」

ひなはいつも以上に早口な安野に若干圧倒されながら、軽くうなずく。

「だからさー、」

女性雑誌もびっくりの良い笑顔で安野は頬に人差し指を添えた。

「家にお邪魔して良い?」