ずっと、ずっと、見てきた。
心臓が焦げるんじゃないかっていうぐらい。
だからわかる。
多田先輩にとって、どれだけはるか先輩が必要で、どれだけはるか先輩が特別なのか。
「やっとはるか先輩が振り返ったのに…っ多田先輩今度こそ潰れちゃいます…っ!」
「ご、ごめん、ひなちゃんっ。ごめんねっ。だから泣かないでーっ」
ボロボロと小さな子供みたいに涙を溢し出したひなに、井岡はピタリと涙を引っ込めて、慌ててひなに飛び付いた。
多田先輩がものすごい頑張りやで、その分案外繊細で、それでいて常々はるか先輩を心の拠り所にし、癒されているのは部活では周知の事実。
はるか先輩本人はいつも多田先輩に頼っちゃってると思っているけれど、本当の意味では逆なのだ。
人知れず多田先輩が弱っているとき、私達後輩では全然ダメだった。後輩達には情けない所を見せたくなかったのか、苦笑いで大丈夫大丈夫と言うだけで…。
たった一人、はるか先輩だけ、隣に立って支える事が出来たのだ。
はるか先輩にはそんな自覚はないのだろうけど。
なんだか最終的には逆に慰めてもらうような形になって、その場はお開きになった。
はるか先輩は何度もありがとうと言っていたけれど、どうしてももどかしい気持ちが胸の中で渦巻く。
ふと、足音が聞こえ、ひなはぐるぐる回っていた思考を一旦停止した。
「…え。」
とぼとぼと夜道を歩くひなの前に、見慣れたシルエットがすっと現れる。
「…なんで。」
「…ひなママにちゃんと送り届けますってメールしたからね。」
仕方ないでしょ?と渡辺は少しとぼけて、ため息と共に笑って見せた。
「お疲れ様。」
ぽん、と頭に大きな手が乗る。
あんまり優しく、温っかかったから。
「…っ。」
ひなは何故かまた泣きそうになった。