びっくりしている先輩を抱き締めたまま、ひなは、ゆっくりと近付いてきた彼を見上げる。

ひなは申し訳なさそうに口を開いた。

「ごめん、渡辺…。先に…」

「うん。分かってる。」

いつもなら、やれ貸し1だのお節介だの言ってくるはずのアイツが、ただ振り向いて手だけヒラヒラさせながら帰っていく。

ひなはなんだか不思議な気持ちで渡辺を見送った。





ちょうど持っていたカフェオレを先輩に渡し、少し落ち着いてもらってから話を聞く。

先輩の話は始め、過去の事や最近の事をごちゃごちゃに混ぜた、感情に任せて吐き出したような内容だったが、その内冷静になってきたのか涙も止まり、ゆっくりと今までの事を話してくれた。

先輩達は同じ大学を途中まで目指していたらしい。

「でも、はるか先輩だけ、進路を変えた。」

「うん、そう…。ずっ…。学力の事もあったし、家がね、ちょっとごたついてて…。どうしても近場の方が都合が良くなってね。だからね、私達も話し合って、一旦納得したの。」

でも…、と、また先輩の瞳に涙が溜まる。

離れる不安、遠距離問題、ちょっとしたスレ違い。

受験の壮絶なストレス。

そして漠然とした、将来の事。

じわじわと擦りきれるような、ギスギスした雰囲気から抜け出せないと、先輩は語った。


「私達、もう…終わっちゃうのかな…?」


「っ!」


ひなはバッと顔を上げ、井岡を凝視した。

そんな、

そんなの、


「ダメです!!」


ひなちゃん…?と、井岡は立ち上がったひなを見上げる。

「ダメですそんなの…っ!多田先輩には、…多田先輩には、はるか先輩じゃないとダメなんです!!」