外灯と月明かりを頼りに二人並んで歩く。

妙な緊張なんていつ頃からか通り越して、居心地のよさと緩やかな鼓動が体の中を支配する。

これって、なんていう感情だろうとひなは考えながら、足元の砂利を鳴らした。


「あれ。」

ふと、ひなは目を丸くして立ち止まる。

ん?と渡辺が隣に視線を送り、それからその視線の先をたどった。

とたんに渡辺の瞳が鋭利な冷たい刃物に変わる。

ベンチの近くで向かい合った…多田先輩とはるか先輩だった。

二人は辛そうな顔をしてなにか会話した後、おもむろに多田がゆっくりと去っていく。

そんな多田の背中を見つめ、しばらくして井岡はふらつくようにベンチに腰を降ろした。

遠くをぼー、っと見つめた後、ふいにクシャっと顔を歪ます。

ポタポタと瞳から落ちる雫を隠すように、井岡の両手が顔を覆った。

「…はるか先輩っ。」

なにがなんだか分からない。

それでもひなは井岡へと駆け出していた。

その流れるようなポニーテールを見て、渡辺は複雑そうに眉を寄せる。

「…本当に、馬鹿だなぁ、ひな。なんでそっち側に行っちゃうかな。」

悲しそうな、いとおしそうなその声は、誰の耳にも届かなかった。