そろそろ初夏。
生暖かい風と少しの冷たさを残した風が、うちのほんの少しだけ
伸びた髪を靡かせる。
途中とても冷たくまった水滴に、空を見上げる。
目の下がスゥスゥして。
頬に零れた涙が温かい風に乾かされていく。
冷たい風が涙を誘う。
乾かすなら誘わないで。
冷たい風は信じたくない自分。
温かい風は信じてみたい自分。
今吹き荒れる風はうちの気持ちと同じで交差し合う。
見上げた空には雲1つ無くて
騒がしかった廊下にはいつの間にか誰もいない。
授業が始まっている。
でもうちは授業に出る気はない。
うちは久々にあの場所へと向かった。
少し肌寒さが残る屋上の床は
何故かうちの心を落ち着かせた。
寝転がった時、ひんやりと背が冷たくなって、鳥肌がうちを襲う。
小さなため息を落とした。

“ガチャ”

ライターの着く音に胸を1人撫で下ろした。
タバコに火を着ける。
ふわぁと香る煙の匂いはどこか懐かしく、えげつない。
思い返してみれば、星夜と出会ってからは屋上で授業をサボることもなかったし、タバコも吸わなかった。
生活の色んなことが一ヶ月や二ヶ月で星夜色に染まった。
楽しかった。
全てを残すようにもう一度煙を吐く。


そしてもう一度タバコに火を着ける。
それから、一枚ポケットから紙を取りだす。
星夜からの手紙。
そこに大きく“好き”と指でなぞりを入れた。
紙を小さな紙飛行機にしてから、二本のタバコを踏みつけ立ち上がる。
人が落ちぬようにと二重にされた柵に高さのある塀。
そこに寄りかかりもう一度ため息を落とす。

“ゴォー”

大きな飛行機の音。
でも今日は苛立ちを感じない。
きっと心に何かを決めたから。
作った紙飛行機に想いを込めて...