「おうっ!紗夜やん!」
‘紗夜’
それが、高い声の持ち主。
「零?また女の子と一緒なん?」
人一倍多く鈍りの入った、紗夜という女の子は、長い金髪を揺らして首を傾げる。
青ぽい大きな目をキラキラとさせて、基本チビのうちより背が低いためか、上を向き、完全に‘好きですオーラ’を出していた。
「あぁ。ごめんなぁ。」
零は何故か謝った。
紗夜ちゃんは、白い肌を薄くピンクに染めて、軽く内股の掛かった足をモジモジさせた。
「ねぇ?二人は付き合ってるん?」
うちはあまりに直球過ぎる質問をしたことに、あとから後悔する。
「んな訳ないやろぉ。オレらはただの幼馴染やで?」
零は相変わらずな、笑顔でケラケラ笑う。
うちの質問を全否定しておきながら・・・。
「えっ・・・。でも紗・・・。」
「世は、ブリッ子やなぁ。(笑)」
言葉を遮った人物は、サラリとひどいことを言い放つ。
それと同時に紗夜ちゃんの頬が膨らむ。
「うるさいわ・・。星夜は黙っとって!」
フイっと横を向く紗夜ちゃん。
でも、その紗夜ちゃんの言った名前に、うちの背筋が凍りつく。
追いつかれた。もう紗夜ちゃんと零なんかどうでもいい。星夜になんて言われるかなんて、考えただけでこめかみの辺りがズキズキする。
今日のうちは、朝から憂鬱感に浸りっぱなしだ。
うちの前で紗夜ちゃんと星夜が言い合いをしている。
零は、それを見てまたも、ケラケラと笑っている。
本当によく笑う男だ。
「・・・。」
器用に動いていた星夜の口が、動くのを止めた。
紗夜ちゃんは、手をジャージの裾にスッポリ埋めて、軽く首を傾げる。
「ごめん。桜貰ってくわ」
星夜の口の動きと同時にうちの口も、パクパクと動く。
‘グイッ’と半ば強引に腕を掴まれ、中央コートに連れて行かれる。
スタスタと先走る星夜の後ろから、テコテコと付いていく。
「ねっ!星夜!危ないって!」
聞いているのか、聞いていないのか分からないけど、確実に星夜の足取りは加速する。