でも、零君はチャラチャラはしているものの、優しい面持ちで、自然と悪かったと思う。
こういう時、こういうタイプの人はずるい。
「あのさ・・・。」
♪ルルルル~♪
やっと開いた口を遮る、着信音。
うちのだ。
♪ルルルル~・・・・♪
3度目のコールでうちは、始話ボタンに、親指を掛けた。
『もしもし~??』
この高い声。
電話を掛けてきた相手は星華だ。
「どうしたん?星華?」
『声だけで、よぅ分かったなぁ♪』
一昨日の事がなかったかの様に星華は明るく振舞っていた。
まぁ、こうでもしないと、一度切り裂かれた傷を直すのは、大変なのだろう。
せめてうちの前だけでも、本当の星華を見せて欲しいけど、口に出さないでおく。
「うん。今どこにいるん??うちは学校なんやけど、もう教室におるん??」
『ちゃうちゃう♪うちまだ家やで!寝坊してもうたわ!2時限目の授業までには、間に合うように、学校行くかんなぁ』
星華が寝坊なんかするはずない。
やっぱり、何かあるんだろう。
「分かたぁ~。んじゃ!また後でな♫」
明るく振舞ってみせる。
だって、何も無いほうがおかしい。
5年も信じて愛し続けた人と別れたんだから。
やっぱり人を信じるのはいや。
失ってから、後悔するくらいなら、信じない方がまし。
『後でなぁ~』

‘ガチャ’

受話器の向こうから、通信が切れる音を確認する。
終話ボタンを押し、まだ前で、突っ立っている、零君を無視して、学年棟と本舎を繋ぐ、中央コートへと、足を走らせた。
全学年が集まるこの場所は、うちはザワザワしていて、いや。
ベンチの上で寝転がり、いびきをかいている人の気持ちが分からない。
2階コートへと続く、階段下のステージで、ABC45の完コピライブをやって盛り上がっている人の気持ちが分からない。
分かりたくもない。
でも1番分かりたくないのは、この大空の下、元気にあいさつの1つも出来ない自分の弱さ。
1年の先輩に気を使いながらする、弱々しいあいさつも、うちにとっては、強いものだと思う。
こんな弱さなんて、一生知らなくていい。
どうしても、知りたくなかった。
ここにいると、知りたくないものを知ってしまう気がする。
うちは、2年棟に逃げるように潜り混む。