すると、母さんは
いつもの笑顔をやっと俺に向けた。
「…ありがとう、コウ」
なんで感謝されたのか、
その本当の理由を俺は分からずにいたけど、母さんが笑ってくれたから……
それだけでいい。
そう容易く考えて
俺は笑った。
しかし、そう簡単には
収まる訳がなかった。
父さんの女遊びが日に日に増えていき、我慢できなくなった母さんは本音をぶつけるようになった。
そして
そこから始まる喧嘩。
俺は夜になると、
眠ったフリをして布団にくるまり耳を塞いで泣いていた。
――――何も聞こえない。
そう自分に言い聞かせて。