「まだですかね・・・」

階段の方向を見つめながら慶介は空ろな声を出した。

亜衣も今となっては諦めと絶望の混じった表情で隅に座っている。
仲埜はペットボトルの水を飲み干し黙って自分の番を待った。

田中はまだ生きてるように見える。触れば少し温かいだろう。
これから死後硬直がゆっくりと始まり、死斑が現れる。そして弛緩していく・・・。


死体を見慣れたはずの仲埜は不思議な気持ちで横たわる田中を見た。

考えてみれば自分は医者である。死体は見慣れていても病気を治すのが仕事の自分は死体に興味を持ったことも無ければ、こうやってゆっくりと眺める事もなかった。