ハスキーなのか、高いのか判断出来ない、微妙な位置にある声。
だが、キーは幅広く、自在に高温も低音も行き来する。
歌唱力も去るこてながら、一番の魅力はその声だといわんばかりの歌声。
聴く者を一瞬で魅了してしまう。
『北村葉瑠、再始動――……』
歌声と同様に美し過ぎる女性が、テロップと共にテレビ画面に映し出された。
漆黒のような長い黒髪。
高貴な猫を連想させる、アーモンド型で切れ長の瞳。
まるで、造られた人形のような美しさを誇る女性。
それが、アーティスト、北村葉瑠だった。
「葉瑠、活動再開するんだっ」
一歌は飛び付くように、テレビの前に移動した。
北村葉瑠は、一歌が大好きな歌手だ。
彼女に憧れてこの世界に飛び込んだわけではないが、彼女の存在が、その気持ちを強くしたのは確かだった。
彼女のようになりたい、という気持ちが、一歌の中にはあった。
だが、歌声にしても、外見にしても、葉瑠に遠く及ばないことは理解してはいる。
「そういえば、そんな噂あったね」
笹原が一歌の後ろからテレビを覗き込みながら言った。
先程と同じCMがまだ流れる。
一度聴いただけだというのに、一歌はもう、そのメロディて、あやふやにだが、歌詞をなぞることが出来た。