『浅田修二』


ディスプレイには、その名前が記されていた。


昨日、登録したのだ。


「電話してくる」


一歌は慌てて言い、笹原から離れた。


笹原の近くで修二と電話なんてしていたら、間違いなく誤解されてしまう。


一歌は純粋に歌うことが好き、という気持ちがある以上、誰かに誤解をされるのは嫌だっ。


今回の成り行きだって、決して視線なものではないが、別にやましいことはない。


「はい」


一歌は笹原の姿が見えなくなったとけろで、通話ボタンを押した。


何故か緊張が走り、声が震えた。


「あ、出た」


電話の向こうから、修二の間の抜けたような声が一歌の耳に届いた。


「な、何の用ですか?」


「別に。用って程じゃないんだけど」


修二の返しに、一歌は暇なのかこいつ、と思ってしまった。


絶対にそんなはずはないのだが。


「用がないなら、切ります」


確かに、一歌にチャンスを与えてくれたのは修二だ。


それは、一歌もよく理解している。


だが、付きまとわれるのだけは勘弁だった。


「飯、食いに行かない?」


やっぱり、用件があるんじゃないか、と一歌は腹の中で毒づいた。


「お断りします」


一歌はきっぱりと言い、電話を切った。


修二はまだ、自分と付き合うつもりなのだろうか。


仕事を受けてしまった以上、修二との接点は今後、増える一方だろう。


どうにか振り切る方法を考えなくては。


一歌は頭を捻りながら、笹原の元に戻っていった。


すると、テレビから、美しい歌声が流れていたのだ。