「いや、よかったな、一歌」


一歌が主題歌の話を引き受ける、というと、柴田は心底嬉しそうな顔をした。


柴田はデビュー前から一歌を目にかけていたので、このチャンスは相当嬉しいのだろう。


「頑張ります」


一歌がそう答える横で、笹原が怪訝な表情を作った。


何となくだが、事の成り行きに気付いているのだろう。


笹原は、修二が一歌に初めて声を掛けてきたところに居合わせている。


それで、このタイミングでのオファーだ。


一歌はそう考え、それで気付かないわけがないだろう、と思った。


だが、一歌は笹原の視線に気付かない振りを通した。


やると決めたからには精一杯やる。


例え、それがどんなきっかけだったとしても。


それが、夕べ、一歌が心に誓ったことだ。


「よし、まず曲から選ばないとな。いい曲にしよう」


柴田はやたらと張り切った様子で言った。


「浅田さんから貰った仕事ですか?」


柴田がるんるんとした姿で消えていくと、笹原が口を開いた。


笹原の敬語に、一歌は妙な怖さを感じた。


「……そうだけど、笹原君が思っているようなことじゃないよ」


一歌の考えでは、笹原は一歌が修二と付き合って、それでこの仕事を貰ったと思っているのだろう、というところだ。


確かに、修二の最初の提案はそうだったが、結果的には違う。


一歌と修二は付き合っていない。


「……ならいいけど」


笹原は半信半疑、といった様子で溜め息をついた。


次の瞬間、一歌のバッグの中の携帯電話が突如震え出した。


バイブのパターンから、着信だと判明した。


一歌は携帯電話を手に取り、ディスプレイを見る。