まず、そのプライドを捨てる。


美香子は修二に会うなり、そう言い放った。


その時修二が断ろうとしていた仕事は、人気アイドルの兄役だったのだ。


自分より、十近く年下の、しかも芝居が下手くそな奴の引き立て役なんて、やりたくもない。


それが修二の言い分だった。


何の為に芝居をしているの?


美香子は続いてそう訊いてきた。


売れたいから、好きだから。


それが、当時の修二の答えだった。


意識してる?


美香子の言葉に、修二は目を丸くした。


目の前の長身の美女が何を言っているか、さっぱり分からなかったのだ。


テレビの前の人が、あんたをまた見たい、もっと見たい、て思ってくれるように意識してるの?


修二はその言葉にはっとしたのを、今でも覚えている。


修二の芝居は、自分の中だけで完結していた。


視聴者のことなんて、これっぽっちも考えていなかったのだ。


それが分かれば、あんたは必ずブレイクする。


美香子はそう言って笑った。


そこから、今の「浅田修二」が作られていったのだ。


懐かしい記憶に、修二は運転しながら目を細めた。


全て美香子の受け売りだが、どうやか計画は上手くいったようだ。


あの子は埋もれさすには勿体無い。


意識を変えたからといって、そう簡単には上手くいかない。


修二だって、実際にブレイクするまでには多少の時間を費やした。


だが、歌手は一回軌道に乗れば、俳優よりも早く上に行ける。


修二は口角を上げながら、運転を続けた。