修二は一歌が扉を閉めるとすぐに、車を発進させた。


あの子はもう、これで大丈夫だろう。


修二は口元を緩ませながら、過去の自分を思い出した。


ただ、俳優になりたかった若い頃。


昔から持て囃されたルックスを武器にすれば、怖いものなんてないと思っていた。


幸い、初めて出た映画でも、芝居を問題なくこなせた。


特別上手いわけではないが、下手でもなく、むしろそれが修二の持ち味だと、監督には言われた。


すぐに、俳優の頂点に立てる。


十代の修二はそう息巻いて、様々なオーディションを受け、持ち前の魅力で役を次々と射止めていった。


だが、仕事が多いわりに、いまいちブレイクしなかったのだ。


何々に出てる人。


世間での修二の印象はそんな程度だった。


ブレイクしないから、仕事が舞い込んでくることはなかなかない。


勿論、主演なんて程遠い。


せいぜい、準主演を、オーディションで勝ち取る程度だ。


そんな状態が、二十代半ばまで続いた。


主演俳優になるには、そろそろブレイクしないと、と修二は焦り始めていた。


ルックスもいい、芝居だって下手じゃない。


何が駄目か、修二には皆目見当がつかなかった。


それでも、芝居をすることは楽しく、続けていたかった。


だがそれは、「脇役」としてではなく、「大物俳優」として、だ。


昔から持て囃されたせいで、修二はプライドばかり大きくなっていたのだ。


そんな時に出会ったのが、今のマネージャー、美香子だった。


折角安定してきた脇役の仕事すら断る修二に困った事務所の社長が、遣り手の美香子を修二のマネージャーにしたのだ。