「これがさ、プロになる、てことだよ」


修二の甘い低音が、頭に響く。


すう、と入っていく、その言葉。


これが、そう。


歌うこれが好きだとか、誰かに聴いて欲しい、とかそんなのではない。


これだけ大勢の人に自分の歌を聴かせる。


これだけ大勢の人に、自分の歌を聴いてもらう。


言葉では上手く表現出来ないが、感覚としては理解出来た。


ようするに、一歌が今まで意識してこなかったことだ。


プロになること。


一歌はそんなことすら、今まで考えてこなかった。


好きだから。


歌いたいから。


一歌が歌う理由はそれだけだったのだ。


歌手になるなら、そんなことは当たり前で、その次を考えなくてはならなかったのだ。


だから、自分の歌は、誰にも届かない。


ただ、歌が上手い、声が綺麗、それだけでは昇れないのだ。


一歌が考えを巡らせていると、いつの間にか二曲目が始まっていた。


また聴き入る観客達。


自分には、根本的なことが欠けていたのだ。


それを、時代とか、流行りのせいにしたり、理解している人を妬んだりしていた。


今、修二から告げられた言葉は、目から鱗だとか、そんな程度の表現では足りなかった。


いや、何か出たのではなく、入り込んできたのだ。


物凄く、大切なことが。


一歌は裕樹の歌を聴きながらも、修二の言葉が頭から片時も離れなかった。