会場前も中も、ライブを心待ちにしている人で溢れている。


かなりの人数だ。


これだけの人達が裕樹の歌を聴きに来ている。


そう思うと、一歌は驚きを隠せなかった。


溢れんばかりの人だかり。


確かに、竣平のライブも凄い数の客が集まるが、裕樹とはキャリアが違う。


それに、自分で曲も作っている。


となると、裕樹の場合は、この人達は皆、純粋に裕樹の歌を聴きに来ているということだ。


一歌は自分には有り得ないことに、物凄いを差を感じた。


「ほら、早く」


一歌は修二の声に我に返り、慌てて修二の後を追った。


会場の中の人だかりを掻き分けるようにして、指定席を探している間、隣にいるのが、あの浅田修二だといつばれるか、一歌はずっとひやひやしていた。


だが、周りの人達は皆、これから始まるライブに心を奪われ、周りを見ている余裕などない素振りだ。


これだけの人数を集中させられるのも、裕樹の実力と才能なのだ。


ライブ開始までまだ時間がある為か、観客達はそわそわした様子で連れと会話を交わしている。


手には沢山のツアーグッズを持って。


一歌は時間を持て余し、大人しく着席をした。


隣に座る修二と交わす会話なんて特にないし、それに、あまり喋り過ぎると、周囲に修二の存在がばれる可能性は高まる。


一歌は取り敢えず、携帯電話のネットゲームで時間を潰すことに決めた。


一歌はラインナップの中からシューティングゲームを選び、それを無言でやり始める。


「何やってんの?」


携帯電話をかちかちと弄る一歌に修二が訊いた。


しかも、一歌の携帯電話を覗き込みながら。


その行動に、一歌は非常識さを感じた。