「主題歌の話、なかったことにして下さい」
一歌は走る車の中で会話を始めた。
だが、何となく修二は聞いてくれない気がしていた。
「あれは、お詫び、て言ったでしょ?」
やはり、聞く耳持たぬ様子で修二は答えた。
「ても、やっぱり違うと思うんで」
修二は華麗にハンドルを切りながら、ううん、と小さく唸った。
「いいじゃん、別に。ラッキーだと思って受けておけば」
一歌は修二の言葉を単純に受け取ることは出来なかった。
「……じゃあ、あの話はなかったことでいいんですか?」
それならちょっとは……と、一歌の気持ちは少し揺らいだ。
いや、そんなのは駄目だ。
一歌はすぐに考えを振り払った。
「それはまた後で別に話すよ」
修二の返しに、一歌は少しだけがっかりした。
その話が流れるわけではない。
「でも、お断りします」
一歌はきっぱりと告げた。
「いいじゃん、もう向こうも君の歌聴いて乗り気だし」
そこまで話が進んでいると知り、軽く目眩がした。
だが、自分の歌を聴いて乗り気になってくれた、という話は一歌の気持ちを浮上させるには十分だった。
「……あの、何であたしなんですか?」
一歌はもう、その話題には触れず、違うことを訊いてみた。
実は、一番気になっていたことだ。
確かに、誰でもいいのだろうが、自分である必要はない。
恐らく、修二はあの時まで自分のことを知らなかっただろう。
たまたま、目について、声を掛けただけ。
自分と恋愛しようとしているのではない。
恋愛しようとして、自分を選んだだけ。