意外に普通なんだ、とそこまで考えてから、一歌はまた頭を振った。
先程からこれの繰り返しばかりだ。
ここには来たのは、修二の意外性を知る為でも何でもない。
「話、聞いて下さい」
一歌は車に乗り込もうとする修二の腕を掴んだ。
一見細身だが、程好く筋肉質な腕。
「移動しながら聞くって」
修二は一歌の手をそっと離し、軽やかに車に乗り込んだ。
そして、あっさりと扉を閉めてしまった。
一歌は急いで助手席側に回り、勢いよく扉を開けた。
「親しくない人の車には乗らないって決めてるんです」
一歌はそれだけ言い、どうだ、と修二の目を見た。
取敢えずの言い訳だが、嘘ではない。
一歌だけではなく、世の殆どの女性は同じ考えだろう。
よく知りもしない男の車に簡単に乗り込む女など、そうはいない。
「何もしないって。仮にも芸能人が女、襲うわけないじゃん」
修二の返しに、一歌はうっ、と言葉を詰まらせた。
言われてみればそうなのだ。
ここで修二が一歌を襲ったとして、問題になって困るのは修二本人だ。
だが、一歌は別に襲われることを危惧して車に乗らない、と言っているわけではない。
いや、だからといって襲われてもいいわけではないのだが。
一歌は修二の思うがままに行動させられるのが嫌なのだ。
「早く乗って。いつ撮られるか分かんないから。嫌だろ? 今撮られるの」
一歌が次の言葉に迷っていると、修二が急かすように言った。
絶対に嫌だ。
不本意なんてものではない。
一歌はそう思い、仕方なく修二の車に乗り込んだ。
結局、思うがままに行動させられている。
一歌が悔しい思いを噛み締めた瞬間、車はエンジン音を立てて走り出した。