その仕草のあまりの色っぽさに、一歌は思わずどきり、と心臓が鳴るのを感じた。


修二はこうして、自分に興味がない女でも簡単にときめかすことが出来る。


一歌はその才能に、心の奥底で嫉妬した。


修二はその仕草のまま、一歌の前へと戻ってくる。


「そんな声出したら、喉、嗄れちゃう」


そう言って、唇に当てていた指を、ちょうどいい加減に浮き出た喉仏へと移動性させた。


滑らかで美しい指の動き。


一歌はその指に目を奪われた。


「昨日から言おうと思ってたんだけどさ、歌手なんだから気を付けな」


修二のその台詞で、一歌の意識は戻ったが、瞬間的に顔が熱くなるのを感じた。


歌手扱い。


一歌はそのことに、胸が疼いた。


修二は自分のことなんて何も知らない。


それなのに、自分を歌手として見てくれている。


それが嬉しかったのだ。


自分なんて、と思っていた。


ましてや、目の前にいる修二に嫉妬すらしていた。


なのに、歌手として見てくれている。


それが堪らなく嬉しかったのだ。


だが、それとこれとは別だ。


一歌は頭を振った。


いくら嬉しいからといって、簡単についていくわけでもなければ、ましてや、付き合うわけもない。


「待って下さい」


再び歩き出す修二を、一歌は呼び止めた。


今度はなるべく喉を痛めないような声の出し方で。


「はい、乗って」


修二は一歌の言葉など聞かずに、シルバーの車を親指で差した。


その車は普通の乗用車で、一歌はそこに意外性を感じた。


一歌の勝手なイメージでは、修二は高級な外車に乗っているようだからだ。