一歌は幼い頃から歌うのが好きで、歌手になりたいと思っている少女だった。
両親との約束で、オーディションを受けるの高校を卒業してから、ということになっていた。
だが、予定より一足早くデビューしたのが、十八歳の時だ。
その時は、嬉しさのみが一歌の頭の中を占め、売れる売れないなど二の次どころか、考えもしなかった。
「ま、人なんて欲張りなものだし」
笹原が帰り支度をしながら答えた。
それもそうだ、と一歌はそれに倣い、崩した髪を適当に纏めた。
人は、一つ夢が叶えば、また次の夢を見る。
だが、一歌はその次の夢を掴めずにいた。